※最初の小ネタにと思って書いていたら静かにヒートアップしてしまいまして、超地元ネタかつ3000文字を超える長文になってしまいました。興味のない方は読み飛ばしてくださいw
さて、本日のGoogleフィードにこんな記事が載ってまして。
リニアと大井川については、地元とそれ以外との認識の差をずっと感じているんですが、この記事でもそこは払拭されてないんだなという印象でした。
この記事では、表題にあるように、「62万人の命の水」という川勝知事の言葉は「ウソ」だと断定していました。以下、記事からの抜粋です。
県大井川広域水道(企業団)が県企業局所管の榛南水道を統合する実施協定が9月16日に結ばれた。静岡県の川勝平太知事は、リニアトンネル工事静岡工区の着工を認めない最大の理由を「下流域の利水に支障があり、県民の生死に関わる」などとしてきたが、今回の締結でトンネル工事の影響にかかわらず、大井川広域水道に十分な余裕があり、下流域の利水に何ら問題ないことが明らかになった。
県企業局は「大井川広域水道が水不足に悩まされたことはない。給水に十分な余裕がある」と説明した。
これは、「大井川は毎年のように水不足で悩まされている」とする川勝知事の説明とは異なる。
実際には、大井川左岸の島田、藤枝、焼津の3市とも地下水による自己水源を有しているため、大井川広域水道からの受水割合は20%程度にとどまり、受水割合の高い右岸でも牧之原市が30%、御前崎市が70%程度である。大井川広域水道給水人口は、約62万人ではなく、7市合計で26万人程度にすぎなかった。
県企業局は「大井川広域水道の給水には十分な余裕がある」と言い、流域7市の大井川広域水道からの受水割合も決して高くない。つまり、川勝知事が口ぐせにしていた「62万人の『命の水』を守る」は事実ではないことになる。
これらの部分が、川勝知事の言葉が「ウソ」であるとする根拠に当たると思います。つまり、
- 大井川広域水道が水不足に悩まされたことはないと県の企業局が説明している
- 大井川広域水道が実際に給水している人口は62万人もおらず、26万人程度
だから、「62万人の命の水」という川勝知事の言葉は「ウソ」だということですね。ていうか、引用した一番最後の所にそのままそう書いてありましたw
さらに当該記事では、その後の論の向きが急に変わりまして、先日の台風15号の折に断水がおきた清水区のために、山梨県から水が供給されたとし、
健全な水循環とは、各県で融通しあうことだ
と結んでいます。うがった読み方をすれば、山梨県に助けてもらったのだから、大井川の源かもしれない水が山梨側に流れたとしても、それくらいは融通しなさいってことなのかなと。
しかし、この記事、ずいぶん乱暴だなぁと思わずにはいられませんでした。
まず、最後の『山梨県からの“命の水”に静岡県民が救われた』ですが、この水を取水したのは富士川河口付近にある富士川浄水場なんですね。住所は富士市。てっきり、山梨で取水した水が送られたんだと思ってたんですが、違うんですね。
ちなみにこの水は、「ふじさん工業用水道」として地域の工場などで使われている工業用水で、本来は一般の水道水としての使用はできないんです。それを超法規的措置で関東地方整備局が工業用水の水道水転用を許可したということです。
『山梨県からの"命の水"』とありますが、富士川の源流が山梨県だというだけであって、山梨県で取水した水道水を送ってもらったわけでもなければ、山梨県が水道水への転用を許可したわけでもないんですよ。
この論から言うと、例えば首都圏の水道水の大半は利根川に依存しているそうですが、利根川は群馬県に源流がありますから、首都圏は群馬県からの命の水に支えられているってことになりますね。
そんなこと思ってる首都圏の住民がどれだけいるんでしょうか。
以前テレビで見ましたが、近畿地方の水がめは琵琶湖ですね。なので、滋賀県民の切り札は「琵琶湖の水止めたろか」だそうですが、それに対して京都府民も大阪府民も「止めればええやろ笑」でしたからね。水源地だからといってどうこうって概念はそもそもないようなものだと思います。
また、前半で書かれている「大井川広域水道の給水には十分な余裕がある」という論ですが。
当のご本人たちのサイトを見る限りでは、
- 大井川流域の7市(島田市、焼津市、掛川市、藤枝市、御前崎市、菊川市、牧之原市)に水道用水を供給しています
- 昭和63年4月に一部給水開始以来、流域約60万人の生活用水をまかなっています。
- 浄水場にくる水は、大井川の上流にある長島ダムから来ています。長島ダムに貯められた水は、中部電力の発電管を通りながら、最後に川口発電所で放流され、その水を浄水場に取り込みます。浄水場でキレイになった水は山や道路の下にある送水管(水道管)を通り、市のタンク(配水池)に送られ、そこからみんなの家や学校に送られていきます。
とありまして、いわゆる上水道に限った話ではないかと。
でも、上水道だけが「命の水」なのではないんですよね。
ちょっと前(2年前)の記事ですが、こちらにはこう書かれています。
- 現地で茶農家を営む男性に話を聞くと、「大井川流域で生活する人にとって、リニアの問題は死活問題なのですが、知事の高圧的な物言いが災いし、県外の方からすると、単にわがままを言っているようにしか聞こえないのが残念です」と語る。
- 工業用水、農業用水(灌漑される農地面積は水田と茶園を主体に1万2000ヘクタール)も大井川の恩恵に預かっている。
- 下流の扇状地では、企業の地下水利用も盛んだ。約430の事業所が、約1000本の井戸を設置する。
- 地下水を採取する工場の関係者に話を聞くと、「節水などさまざまな努力を行いながら地下水を使用しています。だからこそリニアのトンネル工事は心配です。上流部で地下水量が減ったり、地下水の流れが変わったりすると、いま使用している井戸が水枯れを起こすかもしれません」 と語る。
- 渇水期には地下水位が下がったり、川霧が立たないため、お茶の生産にも影響が出た。
といったあたりでしょうかね(太字は私がつけたものです)。
いくら「大井川広域水道の給水には十分な余裕がある」と県の企業局が言ったとしても、それは上水道に限った話。工業用水・農業用水・地下水までも含めて「余裕がある」と言ったわけではありません。さらに、川霧がお茶の生産に影響を与えているなんてことは、当然、県の企業局の話とは全く重ならないわけです。
つまり、62万人は多いかもしれませんが、水道用水の利用者26万人のみをもって、大井川の水の利用者とするのは誤りでしょう。農家や事業所、さらにそこで働く人々の家族まで含めれば、大井川の水の恩恵を受けている人の数はずいぶん増えるはずです。
また、こんなサイトもあります。
こちらにはこんな内容が掲載されていました。
流域住民に対するアンケート調査では、大井川の水量について「やや少ない」又は「少ない」と回答した住民が8割以上を占めており、現在においても一層の流況の改善が求められている。
屋やデータが古いですが、こちらを見る限り、大井川の水量については住民の多くが足りているとは思っていませんし、実際、毎年のように取水制限が行われているわけです。県の企業局の言う「大井川広域水道の給水には十分な余裕がある」と、「大井川の水量に余裕がある」とはイコールではないわけです。
このように、大井川の水問題を論じるにあたって、この、県の企業局の言葉だけを旗印に川勝知事の説明を「ウソ」と断じるのには無理があると思います。
地元に住んでいて、それこそ中高生の頃から何度も大井川の取水制限というニュースを聞いてきました。川勝知事の言っていることは、あながち間違いではないと思っています。それだけに、東洋経済さんにはこうした記事を安易にあげていただいては困るなと思った次第です。